2026/6/1
半月 / いわし玉
2026年夏 七代目 佐藤元英
創業二百年、東三河で愛され続ける超ロングセラー。
手仕事が紡ぐ「いつもの味」の物語。
ヤマサちくわのお得意様には、あらためて説明するまでもないロングセラー「半月」と「いわし玉」。来年、創業二〇〇年を迎えますが、この二品がいつからあるのか、実ははっきり分かっていません。
私が生まれた一九五九年には、すでに当たり前のように並んでいましたし、5代目の頃にもあったようで……今となっては、もっと聞いておけばよかったと、少し悔やんでいます。明治か、大正か。はっきりしているのは、東三河の暮らしの中で、長い時間に磨かれてきた味だということです。
半月
職人の勘と手取りが生む、究極のふわふわ食感。
磨かれ続ける「半月」の伝統製法。
里帰りのお客様は迷わず手に取り、東京の百貨店の催事でも「半月、持ってきた?」と声をかけられる。派手さはありませんが、まさに“超”のつくロングセラーです。
半月に使うのはネコザメやドチザメといったおとなしいサメ。新鮮なままではなく、あえて少し寝かせ、内臓のアンモニアがほのかに立つ、その頃合いを見極めてから使います。裏漉しで筋を取り、石臼でゆっくり擦り上げると、生地は次第に白く、軽く、空気を含むほどに変わっていく。そこへメレンゲのように泡立てた長芋をやさしく合わせ、“浮かせる”ように仕上げます。
この“ふわふわ”が命です。だから機械には任せません。つけ出刃で一枚ずつ手取りし、水に浮かべ、そのまま湯気の立つ釜へ。ぐらぐらと沸く湯の中で、木べらで何度も返しながら火を入れていきます。返すほどに軽く、返すほどにやわらかくなる。今もすべて手仕事。職人の勘と手の加減が、そのまま味になります。
いわし玉
指先で形づくる素材の旨み。
暑い夏にも重宝する、心安らぐ変わらぬ二品。
いわし玉も同じく、最後は釜で茹で上げます。いわしや鯖、鯵、太刀魚を石臼でざくっと合わせ、昆布とにんじんを加え、指で形をつける。あの波型は指の跡です。私がやると山の数が少なくなるのですが、これがなかなか難しい。
どちらも決して華やかではありません。けれど、口にすればすぐに分かる、やさしい旨みと軽やかさ。軽く炙って生姜醤油で一杯、あるいはお吸い物に浮かべてほっと一息……。気がつけば、また手が伸びている。そんな味です。
これからも変わらず、食卓のそばに。半月といわし玉、暑い夏にも食べやすい定番です。今年の夏も、やっぱりいつもの味を。
七代目 佐藤元英